雨の降る森 ～最終日

足を踏み入れただけで、雷鳴が轟き、雨が降り出す森がある。
そんな話を昔、母から聞いた事があります。


「雨の降る森」の場所に関する情報は、以下がすべてです。

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昭和30年代か40年代、近所の人達と山菜のフキを採りに相馬村の沢田の奥へ行った。
舟打の手前を右へ曲がり、山道へ入る。　フタマタという分かれ道を左へ。
ちなみにフタマタを右へ行くと、戦後に北海道から入植した開墾集落があった。
道端に車を駐め、左の小さな川を歩いて渡るとフキの群生地がある。　開けた場所だった。
ここへ足を踏み入れると、晴れていても雷が鳴り出して強い雨が降る。
何回もその場所に行ったが、毎回行く度に雨に降られた。
正確な場所はもう覚えていない。

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そんな不思議な場所があるなら、実際に訪れて事象を体験してみたい。
昨年春から手探りで探索を進めましたが、前回と前々回の記事、 6日目 で手詰まりになってしまいました。
初回からご覧になりたい方は、 こちらへ どうぞ。

何か情報に見落としはないか。

具体的な場所として上げられているのは、フタマタ奥の開墾集落。
大昔に捨てられ、文献にも残っていない、開墾集落の場所を特定する方法はないか。

ありました。
国土地理院のサイトで公開されている、1975年9月に撮影された 航空写真 。
何も無い山の中、林道沿いに立ち並ぶ、わずか数軒だけの集落。


現在の地図と照らし合わせると、この場所です。


この集落へ通じた道の名は、藤倉林道。
2日目 に徒歩で探索。　あまりの悪路に途中で諦めた、あの廃道です。


諦めた地点から、さらに500メートルほど進むと、集落跡に辿り着けたようです。


開墾集落の場所の特定によって、母の記憶違いも判明しました。
母が体験したのは、50年ほど昔の話。　多少の記憶違いは想定内です。

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舟打の手前を右へ曲がり、山道へ入る。　フタマタという分かれ道を左へ。
ちなみにフタマタを右へ行くと、戦後に北海道から入植した開墾集落があった。

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この部分が間違いです。　
フタマタと呼べるような場所は、地図に照らし合わせると1ヵ所だけです。
航空写真で判明した開墾集落の場所は、フタマタを左に進んだ所です。

母にそのことを伝えると、「開墾集落の先を左だったかも知れない。」　
記憶が蘇ったようです。
さらに、「小さな川を渡ったその先、沼のような所を通り、すぐの場所だったような気がする。」

ひとつの記憶違いと、ひとつの忘れていた事柄。
これらを加味すると、1、2日目で最初に想定していた場所が正解だったということになります。

「雨の降る森」の場所は、 5日目 に離れた位置から眺めた、沼の周囲という結論に達しました。


5月後半、新緑で覆われた沢田集落の奥へ。　
景勝、屏風岩です。


沢田集落を過ぎ、橋を渡った所でニホンジカと遭遇。　この草むらです。
目があった瞬間に逃亡。
カメラを出して撮影を試みましたが、逃げられてしまいました。


周辺では、ニホンザルの群れと遭遇したこともあります。
どちらも農家にとっては害獣。　食害が気になります。
クマに注意の看板は倒れていました。


作沢林道で倒木のアーチを抜け、


右の藤倉沢林道へ。


6日目、積雪で自転車に乗り換えた場所を無事に通過。


倒木を避けて通った跡があります。


路面には深い穴。
4輪それぞれのタイヤの位置を正確に把握できないと、通行できません。


天狗森の横。
右の山が天狗森ですが、木々に埋もれてよくわかりませんね。
2週間で景色が変わってしまいました。


巨岩、天狗の腰掛け。
草木に覆われて見えなくなっています。　


鉄砲水で流された、巨大な樋管。


6日目に渡った、藤倉川に到着です。


ここに車を駐め、徒歩で沼を目差します。


熊よけのラジオを大音量で鳴らしながら、来た道を少し戻ります。


水溜まりには、卵から孵ったオタマジャクシ。


左の廃道へ進みます。


廃道を覆い尽くす、シダとフキ。


草が伸びて歩きにくいです。
廃道歩きは、雪融け後すぐが一番楽ですね。


曇っていた空が晴れてきました。


ここで藤倉川を渡ります。


雪融け水も落ち着き、水量は減っています。


通りやすいルートに赤い印が書かれています。
これを目印に渡ります。


滑らないように、慎重に。


無事に横断。
伐採された山。　植林はされていません。


藤倉川に沿って下流へ。


大きな動物が通った痕跡。　昨年と同じ場所で見つけました。


ここにも。
体長は1メートルくらいのようです。


ニホンザルやニホンジカだったらまだ何とかなりますが、ツキノワグマだと怖いです。
辺りに神経を配ります。


ラジオは鳴っていますが、せせらぎの音にかき消されます。
フキの群生地を慎重に進みます。


ここでも川を渡ります。


水深が浅い所は、川の中を歩いたほうが藪より楽です。


川幅の広い、開けた場所。


藤倉林道合流地点の近くです。
ここから斜面を登り、高台にある沼を目差します。


昨年はフキが群生していましたが、今年は少ないようです。


円陣を組む、シダ。


シダの周り、ニリンソウが咲いています。


凄い木があります。　ハルニレでしょうか。
ハルニレは英語でエルム。　五所川原市の商業施設、 エルムの街 のエルムはハルニレのことです。
この木を帰る時の目印にします。


急斜面を5メートルほど登ります。


登りきった所に、6年前の痕跡を発見。


方角に見当を付け、藪を突っ切ります。


開けた湿地、沼に到着です。


沼を右回りに移動します。


水面が見えました。
ここを下ります。


天狗森の沼、天狗沼です。


水面が鏡のようです。


木々の葉、青空、雲、澄んだ空気、すべてが水面に映り込んでいます。


水深は浅く、沈んだ枯葉が見えます。


まるで、印象派の絵画のようです。


藤倉川から一番離れた岸を調べます。


沼を右回り。
藪は深く、移動は困難です。


藤倉川と沼を挟んだ所。
フキは生えていますが、群生というほどではありません。
その奥は林が深く、フキの群生地があるようには見えません。


ナビで位置を確認します。


雷鳴は轟かず、雨も降り出しません。
大きなトチノキの向こうには、眩しい太陽。


足下では、ヒメアオキが小さな花を咲かせていました。


もう少し周辺を探索します。


その時、ドスンという大きな音。
振り返ると、20メートルほど離れた草むらが揺れています。
ニホンザルが木から飛び降りたんでしょうか。　それとも、ツキノワグマ。
ラジオは鳴っていますが、念のため大きな咳をして、人間がここに居ることを対象に伝えます。
咳の音の方が言葉より遠くに響きます。


しばらく様子をみて、相手が立ち去ったことを確認。
肝を冷やしました。


探索を続行します。
あの木の根元から沼の全景を撮影できそうです。


天狗沼全景です。


美しい景色に見惚れます。
ただ、虫が大量に飛んでいます。　虫の楽園です。
虫除けスプレーを体中に吹き付けて来たのに、まったく効きません
カメラを構えていた右手をブヨに刺されました。
手袋ではガードできません。


ブヨに何ヵ所も刺されると、高熱が出て命を落とすこともあるようです。
これ以上襲われないように、退散します。


目印にしたハルニレ。
迷わず戻りました。


矢印に従って帰ります。


「雨の降る森」と思う場所には到達できましたが、雨は降りませんでした。
神秘的な力は失われてしまったのでしょうか。
切り開かれた山々から人々は去り、林道は廃道へ、里山は原生林に戻ろうとしています。


時代は変わり、人が入り込まなくなった、眠る山々。
「雨の降る森」は役目を終え、長い眠りについたのかも知れません。


了



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